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えせバックパッカーの旅日記
肌水のいらないアイルランド(9)

8月6日:曇りのち晴れ

この狭苦しい部屋の二段ベッドでは、いったん目が覚めてしまったが最後、二度寝などできない。さっさと起き出し、さっさと朝食を終えて食堂を出る頃には、食券を手にした宿泊者の長蛇の列ができていた。バスの時間にはまだ間があるので、のんびりしたいところなのだが、なにしろ狭くて、いる場所が無い。仕方がないので早々にチェックアウトし、バスステーションに向かった。今日も空はどんより暗い。でも、雨さえ降らなきゃ上天気だ。

リング・オブ・ケリーにて
9時25分発のロスレア行きのバスは10分ほど遅れて出発した。夕べ眠りが浅かったせいか、バスに乗ったとたん、猛烈な睡魔に襲われた。バスが急停車するので、何事かと目を開けると、牛飼いが牛の群れを連れて歩いていた。「すごい、これこそアイルランドだわ!」と感激し、再び眠りに落ちる。

やけにごみごみした町に入ったなと思っていたら、それがコークだった。ここで10分間の休憩をとり、バスは東へ向かう。ウォーターフォードの手前から薄日が射しはじめた。陽射しを肌に感じるのは何日ぶりだろうか。6時間の長距離バスの旅は、ほとんど眠りこけているうちに終わった。

たまに目が覚めたときに、1つ、気づいたことがある。アイルランドでは、乗客が運転手とよくお喋りをするということである。たいていの場合、乗客は中年のオヤジで、運転席のそばの座席が空いていると、すかさずそこに座り、バスを降りるまで、際限なく運転手と喋り続ける。「パブでギネス片手にうだうだと長話をしている」というのが典型的なアイルランド人のイメージだが、ギネスがなくても実によく喋る。

ウェックスフォードのB&B
ウェックスフォードに近づくにつれ、だんだんと陽射しが強くなり、ついには正真正銘の晴天になった。カビが生えるんじゃないかと思うぐらい湿気がしみついていた身には、この上ない幸せだった。このぶんだと久しぶりに日焼け止めクリームを塗らなくちゃなりそうだわ、と心が弾む。

ウェックスフォードには予定よりも30分ほど遅れて到着。

目の前に流れる川は、海と見まごうほど幅が広い。ここはほとんど海辺なのである。その広い広い川にかかる、長い長い橋を渡ると、キャンプ場があった。インフォメで紹介されたB&Bはその少し先である。

アイルランド最後の夜にふさわしい
きれいで広い部屋
ドアベルを何回も鳴らした末、ようやく出てきたのは、ミセスではなく、ミスターだった。ドアを開けるのにちょっと苦労した彼は、「すっかり湿っちゃってねえ。昨日まで4日も雨が降り続けだったんだよ」と言った。 ミスターは広々としたサンルームに通してくれると、傍らに置いてあったバイオリンを片づけた。どうやらお稽古に夢中で、ベルの音がすぐには聞こえなかったらしい。

今日の私の部屋は18ポンドだが、キラーニーの19ポンドの部屋とは比べ物にならないほどこぎれいで、広々していた。棚がたくさんあったので、荷物を全部出して並べて悦に入った。ベッドはダブルだし、あらゆる点において、昨夜とは段違いだ。


8月8日:晴れ

ぐっすり眠り、目覚めると外は晴れていた。こんな朝は何日ぶりだろうか。

このB&Bの朝食にはぬくもりが感じられる上に、シリアルとオレンジジュースが食べ放題・飲み放題だった。最後のアイリッシュ・ブレックファストをお腹いっぱい食べ、10時頃チェックアウトする。

キャンプ場からの川の眺め
今日は5時発のフランス行きのフェリーに乗るだけなので、3時発のロスレア行きのバスまで完全にフリーである。B&Bを後にした私は、まっすぐキャンプ場に向かった。草むらにB&Bで洗濯してきた衣類を並べ、その脇に寝転がる。今日は丸1日かけて、湿気がしみついてしまった一切のものをからからに乾かすことにしよう。衣類だけでなく、この身も、そして心も。

真っ青な空には太陽がさんさんと輝いていた。目の前に広がる鏡のような川面も、それに負けじと光をはね返してくる。私はこの世界の光という光を、すべて身に受けるつもりで、大きく伸びをした。<完>(1997年夏。当時1アイリッシュ・ポンド=約180円)



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