白状しますと、ベルリンについての記事を書く気はなかったのです。 しかし、帰国して10日ほどたったときに、映画「ヒトラー 最後の12日間」を観て、考えが変わりました。ベルリンが、1945年にヒトラーと、いわば「無理心中」させられた町であるという思いを強くし、そして、大きな負の遺産を背負ったこの町の、 2005年夏の時点における様子を、できるだけ詳しく書き残しておきたくなったのです。 お暇があったら、しばらくおつきあいください。 |
ドレスデン発のIC特急は、定刻ぴったりにベルリン・オスト駅(=東駅)に滑り込んだ。 ここからホテルまでは距離にして1キロしかないのだが、行くのはけっこう面倒臭い。S-Bahn(近郊列車)で1駅先のアレクサンダー広場まで行き、そこからさらにU-Bahn(地下鉄)8号線に乗り、なかば戻るようにして2駅先のハインリッヒ・ハイネ通りで降り、そこから10分歩かなければならないのである。
IC特急から降り、ホームの階段を下ると、 地下道になっていた。 S-Bahnのホームへは、この地下道から直接上がれる。 これは便利だ。あらかじめS-Bahnの切符を持っている人、つまりベルリンに住む人にとっては。 また、日本のJRのように、「東京行き切符」イコール「東京都区内行き切符」であって、 23区内のJRの駅まで、その切符で行けるというのなら、それはそれで納得である。 でも、私はベルリンに住んでいないし、 IC特急の「ベルリン行き切符」がどこまで有効なのかも知らなかった。今も知らない。 この記事を書きながら、ひょっとしたらS-Bahnの駅までは有効だったのかもしれないと思い始めたところである。 肝心なのは、ベルリンに不慣れな私が「とにかく切符を買わなければならない」と思ったという事実である。 こうして私は切符売り場を探して駅の中をさまよい始めた。 日本の駅だったら、持っている切符が有効なのは改札を出るまでである。 改札を出たら、切符売り場がある。その点では迷いようがない。 しかし、ヨーロッパの鉄道はそうではない。 改札という明確な区切りが無いのだ。 無いのだけれど、 長距離列車を降りて、次に乗るべき市内交通の切符売り場に行き、切符を買う、という行為は、自然の流れの中でできる。 切符売り場を探してさまよい歩いた経験は今までに無い。おそらく表示がきちんとしているせいなのだろう。 オスト駅は旧東ベルリンの玄関口とも言うべき駅で、東京で言えば上野駅に匹敵する。(場所的には上野よりも東---両国あたり?だが。) 上野駅に比べたら、規模こそ小さいが、駅の「格」という点では、匹敵する。 そんな駅だったら、 切符売り場も数カ所あっていいだろう。 どーんと大きい切符売り場が1つだけある、というのでも、まあいい。 たぶん、そのどちらかだろう。 そんな先入観を持って駅中を歩き回った末、ようやく切符売り場を見つけた。そこには、窓口が3箇所しかなかった。当然、窓口の前には長蛇の列ができている。
もっとも、たいていの人は決まり切った切符---おそらくは1回券または1日券---を買うだけであるようで、恐れていたほどは待たされなかった。 このあたりからようやくわかりかけてきたのだが、 どうやら、アレクサンダー広場方面行きのS-Bahnは、すべて同じホームに来るらしい。 悩むことはなかったのだ。でも、 よそ者は、その程度のことすら、理解するのに時間がかかるものなのだ。ベルリンに住む人には想像もできないだろうけれど。 ヨーロッパは古くから「観光」が発達した地域である。 だから、町によそ者が来ることが、あらかじめ想定されていて、初めての人でも、極端な困難を感じずに動けるようにできている。 しかし、 東ベルリンの玄関口であったオスト駅の作りには、 よそ者が大挙して押し寄せることなど、 はなから考えていなかった、という感じが濃厚に漂っている。 「人は自分が住んでいる地域から動かないものである」--- 旧東独というのは、そういう考え方の国だったということなのかもしれない。 |
フリードリッヒ通りというのは、オスト駅同様、旧東ベルリン地区にあり、博物館・美術館が集中する「博物館島」の最寄り駅である。東京で言えば、神田?御茶の水?みたいなところ。 もう一方のティアーガルテン駅は旧西ベルリンに属している。東京でたとえて言えば四谷あたりか? 一応、バスによる振り替え輸送があるようだが、「渋滞するからなるべく乗るな」みたいなことが書いてあり、「アレクサンダー広場から地下鉄を使って迂回することを薦める」だと。 東京で言えば、上野から地下鉄を使って赤坂に行け」というようなものである。 (そんな地下鉄、東京にあったっけ?という話はおいといて、)まだまだベルリンの交通網は発展途上にある。というと聞こえがいいが、要するに、整備ができていない。 翌日、ベルリン在住の友人に会いに、 U-Bahnでポツダム広場まで行き、 「S-Bahn」の表示に従って歩いて行った。 当然のことながら、 S-Bahnの入口があった。 あったけれど、入れなかった。工事中でロープが張られていたのだ。 こんなのは序の口だった。 旧西ベルリンの玄関口だった ツォー駅(=動物園駅。東京で言えば新宿あたり?に相当する)で、U-Bahnに乗ろうとしたときのことである。表示どおり階段を下りたら、目指すホームが存在しなかった。。。(呆然泣) しょうがないので、別の線に乗って、迂回して行きましたよ。
「ベルリンはヨーロッパのどの都市よりも広い。そして、ヨーロッパのどの都市よりも動きづらい」 |
要するに、ベルリンはまだ工事中なのである。
たとえば、アレキサンダー広場駅。 また、ベルリンの目抜き通りであるウンター・デン・リンデンにも、広範囲な工事中エリアがある。
ヨーロッパを旅していると、旧市街の趣のある町並みの中に、目障りなクレーンが立っているために、写真が撮れない、ということがざらにある。 しかも、このクレーンは動いていない。バカンスの時期には工事がストップしてしまうからだ。つまり、ただ邪魔なだけで、何も公共のために役立っていない。 観光客がたくさん来ることはわかっているんだから、バカンスの前にどかしておいてくれたらいいのにと、観光客である私は、いつも思う。 その点、ベルリンで見たクレーンは、いつも稼動していたという点において、その存在意義は明白で、観光客としても許す気になれた。 (ドレスデンも同様だった。聖母教会周辺のクレーンはしゃかりきになって働いていた。) ベルリンがほんとうに1つの有機的な町として完成されるのは、まだ先である。 ベルリンで観光を楽しみたいなら、もう少し待つべし。少なくともあと5年は。10年待ってもいいかも。 ただし、未完成で未整備な大都市をさまよい歩いて呆然としてみたい人(←そんな人、いないだろうなあ)には、なるべく早いうちに行くことをお薦めする。 * * * * * * * * * * なぜこんなにしゃかりきになって工事をしているのか? もちろん究極的には「1つのベルリン」の完成を目的としているのでしょうが、来年(2006年)開催されるサッカーのW杯を目指しているということを、記事を書き始めてから知りました。物知らずの自分が恥ずかしいです。今年ベルリンを訪れたのは、バッドタイミングだったのかもしれません。 |