前がきのない旅行記はないチェコからドレスデン、そしてベルリンという旅程は、児童文学とは無関係に決めたのです。 ドイツに関しては宿の予約以外、ろくに下準備をせずに旅立ち、チェコでの旅程を半分以上消化した頃、初めてガイドブックを開きました。すると、「ドレスデンにはケストナー博物館がある」と書いてあるではありませんか。知っていたら、未読作品を読んでおいたのに・・・と地団駄踏んでも後の祭り。というわけで、せっかくの聖地巡礼なのに、予習が不十分だったことは否めません。 せめてもの救いは、2、3年前に「エミール(エーミール)」シリーズ2冊を再読してあったこと。そのお陰で、準備不足だったとはいえ、今回の聖地巡礼も、それなりに感慨深いものとなりました。 |
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よくない醜いものを知るだけでなく、美しいものをもわたしは知っている、ということが、ほんとうだとすれば、それは、ドレースデンに生まれた幸運の賜物である。
何が美しいかを、わたしは書物によって初めて学ぶにおよばなかった。学校でも、大学でも、学ぶにおよばなかった。山林官の子が森の空気を呼吸するように、わたしは美を呼吸することができた。
-----「わたしが子どもだったころ」より
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言われたとおり、すぐ次に来た7番のトラムに乗る。トラムは、旧市街の東の脇をノイシュタットに向かって、ひたすら北上した。エルベ川の橋を渡るとき、旧市街の町並みが目に飛び込んできた。その美しさに、一瞬息を呑む。かつてドレスデンは「エルベ川のフィレンツェ」と呼ばれていたのだそうだが、さすがそれだけのことはある。 橋を渡ってから、2つ目の停留所がアルベルトプラッツだった。車内放送で「アルベルトプラッツ。エーリッヒ・ケストナー・ムゼウム」と言ってくれるので、実にわかりやすい。 トラムから降りたつと、アルベルトプラッツは、噴水のある、すがすがしい雰囲気の広場だった。でも、目指す博物館がどこなのか、さっぱりわからない。ガイドブックの地図を確認し、ゆるゆるとそれらしき方向に向かってみると、塀に囲まれた、まるで普通の住宅のような小さな建物があり、日本人女性の3人連れが出てきた。ここだ、間違いない。
門には看板らしきものはなく、そのかわりに、門の脇に小さな看板がぽつんと置かれていた。しゃれたデザインの、ケストナーのファンなら、なんとなく嬉しくなるような看板である。玄関の表札を見ると、博物館はこの建物の1階だけのようで、2階には違う名前が書かれている。 玄関を入ると、若い女性が出てきた。「ムゼウムはここですか?」と訊くと、そうだという答え。そして、「 最初に説明があるので、ちょっと待っていてください。今、別の人たちに説明を始めてしまったところなので」と言う。見ると、若い男性がドイツ人グループに説明をしている。 入場料3ユーロを払うと、門の脇の置き看板と同じデザインの入場券をくれた。 待っていると、 もしよろしければ荷物をここに置いてもいいですよとか、暑かったらジャケットを預かりましょうとか、ここの人たちは、なんだかとても親切である。 |